| 新入会者歓迎儀式(文:うー!さん)
「こちらがボディビルクラスのトレーニングルームです。」
30代くらいの長身の男がまだ若い男を案内している。30代と思しき男はこのジムのオーナーだ。若い男は新しい入会希望者らしい。
「ほう、なかなか器具も揃っているし、広くていいトレーニングルームですね。」
若い男はジムの中をきょろきょろと見回した。しかし、その表情は少し皮肉な笑みを浮かべていた。
「でもねえ、オーナー、器具がどんなによくてもトレーナーが一流じゃないとねえ」
若い男はじろじろと無遠慮にオーナーの体を眺めた。オーナーはよく鍛えられた体をしていたが、ボディビルダーのような筋肉隆々の体付きではない。
「ほら、俺のこの腕を見てくださいよ。」
若い男はそう言ってTシャツの袖を捲り上げた。そしてぐっと曲げて力瘤を盛り上げて見せた。
「この腕! どうです、太いでしょう! 俺はボディビルダーとしてコンテストで優勝できるような体を作りたいんだよ。やっぱりトレーナーがよくないと!」
そう言ってもう一度、オーナーの体をちらりと見て小バカにするように、はっと声を出し首を振った。
オーナーは苦笑して、
「いえいえ、私はオーナーですが、専門はエアロビでして、ボディビルクラスは後から来る別のトレーナーが担当なんですよ。」
男は興味を示し、
「ほう、ボディビルダーのトレーナーがいるんですか。その人はコンテストに出ているような有名な?」 と聞いてきた。
「いえ、何でも出場するクラスがないとかで、コンテストには出てないらしいです。でも、ものすごい体をした、きれいな女性ですよ。」
オーナーが答えると、
「えっ、女のトレーナー?! いくらすごくったって女のトレーナーじゃねえ。」
若い男はますます見下すようにオーナーを横目で見た。
この手の反応はいつものことで、特に自分の体に自信のある者は特に顕著だ。確かにこの若い男も相当逞しい体をしていた。
オーナーは肩をすくめてため息をついた。
「じゃあ、どうなさいます? 入会は見合わせますか?」
オーナーの問いに、若い男は意地の悪い笑みを浮かべて、
「いえ、他のビルダーの人やそのすごいっていう女トレーナーに会ってからにしますよ。」 と言った。すっかり侮っている男の口ぶりに、オーナーがちょっとむっとしたとき、カランとドアベルが鳴って誰かがジムにやって来た。オーナーと男が振り向くと、あどけない顔をした女の子が靴を履き替えていた。優美だ。優美はオーナーと男が自分の方を見ているのに気づくと、
「あっ、オーナー、こんにちは。またトレーニングに来ましたよ。」 とかわいい声で言った。靴箱の陰になって優美の顔だけしか見えないが、どうやら小学生のようだった。
「ぷっ、ここのジムは小学生も来てるんですかぁ。」
若い男は完全にバカにしている。オーナーは首を振って男に気づかれないように優美に目配せした。優美は頷いて微笑み、更衣室へと消えていった。
「オーナー、こう言っちゃあなんだけど、あんな女の子が出入りするようなジムじゃあタカが知れてますなあ。俺はここで本格的なボディビルができるって聞いたんで来たんですぜ。こんなんじゃあとても入会なんて…」 となめ切ったように言い出したとき、更衣室の扉が開いて中からTシャツに着替えた優美が出てきた。
男は優美の方を何気なく見やって凍りついた。
優美は小学生らしいあどけなさの残るかわいい顔をしていたが、その下の身体は男の予想を大きく裏切っていた。
裏切ると言うより考えられないとか、間違っているという方が正しいのかもしれない。扉の影から現れた優美の肉体はボディビルダーの男を優にしのぐ莫大な筋肉に覆いつくされていた。いや、その男どころか、男が見てきた一流と言われるボディビルダーでさえもこれほど見事な筋肉だったかと思えるほどだ。どう見ても小さいTシャツを強引に着込んだ優美の体は男やオーナーと比べると頭一つ分は小さいのにとても『小さい』とは言えない。
本来ならばようやく膨らみ始める小さな胸は丸々むっちりと膨れ上がった大胸筋に覆われ大きく前に張り出している。そのためにTシャツのすそが持ち上げられて、ぱっくりと割れて盛り上がった腹筋が覗いていた。どうやら優美は女性ボディビルダーがコンテストのときにつけるようなポージングスーツを身に付けており、ぴっちりとした水色のパンツからは男の両脚を筋肉を合わせても片脚分にさえならないほどの膨大な筋肉が隆々と盛り上がり、あまりにも太すぎるゆえに両脚の間にはわずかな隙間さえまったくない。そして何といっても真っ先に目を引くのがその腕だ。Tシャツに包まれている腕は特に優美が力を込めているわけでもないのにこんもりと力瘤が膨れてTシャツの袖を引き伸ばしてTシャツの上からでも筋肉の凹凸がはっきりと見える。その腕の太さたるや、優美の頭よりも巨大で彼女が小学生でまだ頭が小さいことを差し引いたとしても異常なまでに太過ぎる。
男は魂を抜かれたようにあんぐりと口を開けたまま、呆然と優美を見つめていた。優美は男のような反応には慣れているようで、少しも躊躇せずに男とオーナーの方へと歩いてきた。桁外れに太い腕とその腕に負けないくらいに盛り上がった大胸筋が互いに押し合うために腕を大きく開いて振らざるを得ないようで、のっしのっしといった具合に歩いてくる。当然体重もかなりなものだろう。丈夫なはずのジムの床が優美が足を下ろすたびにみしっみしっと不気味な音を立てた。
優美が男達の前に立った。圧倒的なバルクを持った優美に目の前に立たれるとそれだけで押しつぶされるような圧迫感がある。男は身長こそ優美より高いものの、あとはすべて優美が遥かに勝っていた。
優美はオーナーをちらりと見て目配せし、
「こんにちは、オーナー。またトレーニングしに来ました」 と丁寧に挨拶した。
オーナーは 「ああ、優美、小学校終わったんだ。」 と答えた。
男は改めてこの女の子が間違いなく小学生で、童顔の成人した女性ではないことを思い知らされた。
優美は男の方を振り向くと、
「こんにちは、見学者の方ですか?」 とやはり丁寧に挨拶した。
その巨体に似合わず、物腰の低い優美に安心したのか、我に返って
「あっ、ああ、オーナーにジムの中を案内してもらっていたところだ。」 と言った。
「ところで君は?」
「あっ、私ですか? 私はこのジムでトレーニングさせてもらっている仲尾優美っていいます。10歳です。」 とにっこり笑ってぺこりと頭を下げた。
まだ10歳にしてはしっかりしている方だが、まだ舌足らずな話し方は小学生らしい。
男は優美が男をからかうために何か肉襦袢とか着ぐるみのようなものでも着ているのではないかと思ってまじまじと優美の体を見たが、どう見ても本物の体としか見えない。
「な、なあ優美ちゃん、凄い体してるけど、身長と体重はどのくらいあるんだい?」
男は好奇心を抑えきれずに尋ねた。
「えっ、私? うーんと、この間量ったときは確か身長が160cmで体重が130kgだったけど、今は135kgくらいになってるんじゃないかなあ」
「ひゃ、ひゃくさんじゅうごきろーっ!!」
男は信じられないほどの数字に思わず大声を上げてしまった。背が高く、かなりの筋量であるはずの男自身でさえ80kg台で、男よりも50kgは重いことになる。
「えへへ、でもだいぶ筋肉大きくなってきたからすぐ140kgになるよ! 身長ももっと伸びたらいいんだけどね!」
優美は自慢げに自分の体を見た。
「うん、また大きくなったんじゃないか、優美!」
オーナーは優美の体を見ながら言った。
「あ、オーナー、分かります? おかげでこの間買ったばかりのTシャツがもうぴちぴちなんですよ〜。」
そう言って、着ているTシャツのすそを軽く引っ張った。
「ええっ、そのTシャツ、この間買ってたやつかいっ?! この間はだぼだぼだっただろっ!!」
オーナーはあきれたように言った。優美は10歳で、伸び盛りだが、それにしても筋肉の成長の早さには驚くしかない。
「そうそのTシャツがもう破けちゃいそうで、力を入れないようにしてるの。」
そう言われれば、優美は少し猫背気味に前かがみのような姿勢をとっている。オーナーは、
「そんな姿勢をしていたら癖になって本当に猫背になるぞ、優美! また新しいのをあげるからしゃんとしなさい!」 と注意した。
優美はにこっと笑って、
「ほんとに? だからオーナーってだーい好きっ!!」 と喜んで背を伸ばすと、パンパンに盛り上がった大胸筋がぐいっと前に突き出され、丈夫そうなTシャツの生地が大きく引き伸ばされた。優美が着ているから小さく見えるがそのTシャツは相当大きなサイズで一般的な体形用のTシャツだったら3枚は作れそうだ。しかもトレーニング用にかなり丈夫に作られている。そんなTシャツでさえ、優美の筋肉をようやく覆っている状態だった。
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